大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所姫路支部 昭和51年(ワ)268号 判決

原告

中西奈良雄

被告

市島町農業協同組合

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し次の金員を支払え。

(1)  金三四八万八九四三円とこれに対する昭和五一年八月二四日から完済まで年五分の割合による金員。

(2)  金四〇万円。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らのそれぞれ負担とする。

この判決は第一項にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の申立

一  原告

被告らは各自原告に対し次の金員を支払え。

(1)  金七七九万一六〇六円とこれに対する昭和五一年八月二四日から完済まで年五分の割合による金員。

(2)  金四五万円。

訴訟費用は被告らの負担とする。

仮執行の宣言。

二  被告ら

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求の原因

一  西川和男は、昭和五〇年五月六日午後一時三〇分頃姫路市飾東町小原四九一番地先道路を普通貨物自動車(番号・神戸一一す二三六二号、以下被告車という。)を運転して北進中、折から前方より対向して進行してきた原告運転にかかる普通貨物自動車(番号・姫路一一ぬ六〇五〇号、以下原告車という。)の右側部に被告車右前側部を激突させ、その衝撃により、原告に対し、内臓破裂・左膝部右下腿部挫傷・頭部打撲・下顎部裂剥・右第一二肋骨骨折・右腓骨骨折・下口唇部切剥などの傷害を与えた。

二  被告敬治は西川を雇用し、かつ、被告車の所有者であり、西川は当時同被告の業務遂行のため被告車を運転していたところ、本件事故は西川が四トン車たる被告車に約七トン(車両本体とも)のセメントを積載して相当カーブしている事故現場付近道路を高速度でセンターラインに沿つて進行し、かつ、前方不注視のためカーブを曲り切れず、被告車を対向車線に進入させた過失により発生したものである。

したがつて、被告敬治は自賠法三条および民法七一五条により、本件事故のため原告の被つた損害を賠償する責任がある。

三  被告組合は昭和四七年九月頃被告敬治との間で被告車を含む同被告所有の車両全部につき被告組合取扱いの自動車損害賠償責任共済保険契約に加入し、また、被告組合の請求により同組合の運送品の運送を被告敬治が優先的に取扱い、その対価として、右加入にかかる車両に被告組合のマークを表示することを認める、旨の契約をなし、本件事故当時、被告車に被告組合のマークが大きく表示され、第三者が見れば直ちに右車が被告組合所有車と推認できる状態にあり、かくて、被告組合は当時被告車の運行につきその名義貸与者として運行の利益および支配を有していたものである。

したがつて、被告敬治は自賠法三条により、本件事故のため原告の被つた損害を賠償する責任がある。

四  原告は、本件事故により、次のとおり損害を被つた。

1  治療費 金四六万三八〇六円

原告は昭和五〇年五月二三日から昭和五一年一月五日までの間に石川病院で治療を受け、治療費金二三万一三〇六円を支払い、また、原告は本件事故により歯を破損し、小野寺歯科医院で治療を受け、治療費(義歯代を含む。)金二三万二五〇〇円を支払つた。

2  入院雑費 金二万七〇〇〇円

原告は本件事故により石川病院に昭和五〇年五月六日から同年六月二八日までの五四日間入院し、一日当り少なくとも金五〇〇円の入院雑費を支出した。

3  付添看護料 金二八万三〇〇〇円

原告は、前記入院期間中重傷のため食事、用便などを独りでできず、妻ふさ子と付添婦桜井静子が昼夜交替で付添看護し、昭和五〇年五月六日から同月三〇日までの二五日間一日当り金七〇〇〇円の割合による付添看護料合計一七万五〇〇〇円を右桜井に支払い、また、同月六日より同年六月二八日までの五四日間の妻ふさ子の看護については一日当り金二〇〇〇円の割合による付添看護料金一〇万八〇〇〇円を要した。

4  文書料 金一万円

原告は、石川病院に対し診断書作成費金八〇〇〇円、診療報酬明細書作成費金二〇〇〇円を支払つた。

5  休業補償費 金一四〇万円

原告は、当時、従業員四名を雇い自動車の整備、販売などを業とする北条鈑金塗料有限会社の代表取締役の職にあり、年収金二一〇万円を得ていたところ、本件事故により八か月間の休業を余義なくされ、金一四〇万円の損害を被つた。

6  逸失利益 金三六〇万七八〇〇円

原告は、前記重傷を被り、小腸を一部切除、横行結腸間膜損傷部の修復手術を受けているため、腹部に力が入らず、常時食欲不振、慢性便秘状態が継続し、その薬による排泄には肛門、腹部に疼痛が伴い、頭部打撲による頭痛鈍重感および腹痛がとれず、未だに、従前どおり職務に従事することができず、この症状は自賠責保険後遺障害等級表第一一級九号に該当し、その労働力喪失率は二〇パーセントを下らないところ、原告は本訴提起当時五六年であり、六七年まで右職業に就労可能であるから、その間の右労働力低下による逸失利益は左記算式のとおり金三六〇万七八〇〇円となる。

2,100,000円×0.2×8,590=3,607,800円

7  慰藉料 金二〇〇万円

原告は、本件事故により重傷を被り前記大手術により一命を辛うじて取り止めたものの、前記後遺障害により労働力などが低下し日常生活面、職務面とも多大の苦痛を余儀なくされ、一方、被告らは示談解決などに誠意なく、一円の支払もせず、これら諸事情を勘案すると、本件事故による原告の慰藉料は金二〇〇万円を下らない。

8  弁護士費用 金四五万円

原告は、本件訴訟手続を原告代理人に委任し、着手金二〇万円を支払い、成功報酬金二五万円の支払を約束した。

五  よつて、被告らは連帯して原告に対し次の金員を支払う義務がある。

(1)  前記四項1ないし7の損害金七七九万一六〇六円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(2)  同8の弁護士費用金四五万円。

第三被告らの答弁

一  認否

1  請求の原因第一項記載の事実のうち、受傷の内容は不知、その余は認める。

2  同第二項記載の事実のうち、被告車が被告敬治の所有で事故当時車両本体とも約七トンの重量を有していたことは認めその余は否認する。被告車の車両総重量は七七二五キログラムと指定されているから、本件事故当時被告車に積載違反の事実はない。

3  同第三項記載の事実のうち、被告車に被告組合の名称が表示されていたことは認めるが、その余は否認する。

4  同第四項記載の事実は否認する。

二  抗弁

1  被告組合の被告車運行支配について

被告敬治は、トラツク二台を保有して運送業を営み、被告組合取扱の配合肥料等を運送していたが、車に被告組合の名称の記載があるとその積込みなどに便宜が計つてもらえるので、これが表示を要求し、被告組合も了承し、被告敬治保有のトラツク(番号・神戸一一さ一三〇八号)につき被告組合の名称の表示を認めたが、同車はすぐに廃車し、被告敬治の都合で被告組合に通知しないで被告車に被告組合の名称を表示した。このようにして、被告組合の名称の使用の経緯は原告主張のところと全く相違するものである。因みに、被告敬治は被告組合取扱の共済保険にも加入していない。

また、被告組合は、昭和四七年中は、被告敬治に対し相当量の運送依頼をなしたが、その後は正規の運送業者への委託が多くなり、被告敬治への運送依頼は殆んどなくなり、少くとも、昭和五〇年に入つてから後は、右運送依頼は皆無であつた。

そうすると、少くとも昭和五〇年以降は被告組合の名称使用の承認もほぼ自然解消となり、被告敬治への運送依頼も皆無で、僅かに被告車に被告組合の名称が残存しているだけで、被告組合は被告車に対し運行の支配および利益を有していないから、被告組合は自賠責三条にいう被告車の運行供与者の責任は負わない。

2  免責事由

本件事故は道幅も狭く見通しのよくないカーブの個所で、原告車がセンターラインを越えて被告車の進路に進入してきたため、被告車が急制動をかけたが間に合わず、発生したものであり、被告車運転の西川に過失がなく、原告の一方的過失により生じた事故である。

また、被告車には、機能上の障害ならびに構造上の欠陥は全く存在しない。

したがつて、被告らは自賠責三条但書により、本件事故につき運行供与者としての責任を負わない。

3  過失相殺

仮に、西川に過失が存するとしても、原告にもセンターラインを超えて進入するという重大過失があるから、賠償額の算定に当つては、相当の過失相殺がなさるべきである。

4  弁済

原告は被告車の自賠責保険より金八〇万円を受領している。

第四被告らの主張および抗弁に対する原告の反論

一  被告組合の運行供与者責任について

被告組合がその名称の表示を承認していた車両は間もなく廃車になり、その後、被告敬治が被告車に右名称を表示したものであることは争わない。

しかし、被告敬治は、引続き被告車を使用して被告組合取扱物品の運送業務に従事していたのであるから、被告組合も被告車に被告組合の名称が表示されていることを熟知し、かつ、認容していたものである。

したがつて、被告組合としては、仮に昭和五〇年以降被告敬治に対し運送の依頼をしなかつたとしても、被告組合の名称を被告車から取り外すよう適当な措置を講ずべきであつたのにかかわらず、その措置に出なかつた被告組合は、いわゆる名義貸与者として自賠法三条の責任を負わねばならない。

二  免責事由および過失相殺について

西川は、衝突直前、被告車の右側前後輪をセンターラインにかかるような状態で被告車を運転していたものであり、もし、西川がキープレフトの原則を遵守していたら、幅員が片側三メートル・カーブもゆるやかな事故現場においては、本件事故の発生は回避できたものというべく、したがつて、西川の過失は重いものといわなければならない。

三  弁済について

原告が被告車の自賠責保険より金八〇万円を受領したことは争わない。

しかし、右金八〇万円は昭和五〇年五月六日から同月二二日までの石川病院における入院治療費金七八万八二八〇円の支払に充当され、同病院が原告に代り直接支払を受けたものである。

したがつて、被告らの弁済の抗弁は理由がない。

第五証拠〔略〕

理由

一  本件請求の原因第一項記載の事実は、原告の受傷の内容をのぞき、当事者間に争いはない。

原告が本件交通事故により、内臓破裂・左膝部右下腿部挫傷・頭部打撲・下顎部裂創・右第一二肋骨骨折・右腓骨骨折・下口唇部切創などの傷害を負つたことは、成立につき争いのない甲第三号証の一・二により認めることができ、これに反する証拠はない。

二  次に、被告敬治が被告車を所有していることは当事者間に争いがなく、また、証人西川和男の証言および被告本人荻野敬治尋問の結果を総合すると、西川和男は本件事故の当日に兄・被告敬治からセメント袋一三〇個運搬のため被告車を借受け、その運搬中に本件事故が発生したことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、被告敬治は本件事故当時被告車の運行の支配および利益を有していたものというべきである。

三  成立について争いのない甲第七号証の二、乙第一、第三号証、証人西山保の証言および被告本人荻野敬治尋問の結果を総合すると、被告敬治は、かねて貨物自動車二台を保有して運送業を営み、昭和四七年七月頃から被告組合のため養鶏用飼料などの運送業務に従事していたところ、飼料工場へ養鶏用飼料を集収に赴くに際し農業協同組合の名称入り自動車で行つた方が運送上有利な取扱を受けられることを知り、間もなく、被告組合担当者に被告敬治の保有車にも被告組合の名称を使用できるよう懇願したところ、被告組合も了承し、同年九月に、両被告間に(イ)被告敬治の保有する貨物自動車(番号・神戸一一さ一三〇八号)の車体に被告組合の名称を用いて広告すること、(ロ)車体に記載する文字の大きさ等は一切被告敬治に一任すること、(ハ)右広告料は無料とすること、(ニ)右車両により交通事故が発生しても被告組合には一切無関係であること、(ホ)被告敬治は被告組合の運送業務を優先的に処理すること、(ヘ)被告敬治は、自賠責保険のほか、右自動車につき被告組合の行う自動車共済保険に加入すること、以上のような内容の契約が成立したこと、被告敬治は、間もなく、前記貨物自動車車体に被告組合の名称を掲記して右運送業務に従事していたが、一年後に自己の都合により右自動車を廃車し、改めて、被告車に自己の一存で被告組合の名称を記載して運送業務に従事してきたこと、本件事故当時被告車の車体には、荷台両側部扉に「市島町農業協同組合」、荷台後部扉に「市島」と掲記されているほか、運転席左右の両扉と荷台後部扉の中央に、いわゆる農協マーク(円型の中に「協」の文字などを記入)を記載していたこと、被告敬治は、前記契約成立後も引続き被告組合のため全国農協連神戸飼料工場から被告組合事務所まで週四回ほど養鶏用飼料の運送業務に従事してきたが、その後養鶏が減少したため、昭和四九年当初から急激に右飼料運送業務が激減し同年中は殆んどなくなり、昭和五〇年には全くなくなつてしまつたが、両被告とも前記広告等の契約を破棄する旨の通告をしたわけではなく、被告組合から被告敬治に対し被告車などに被告組合の名称を使用することを禁止する旨の通告その他の措置をなしたことも全くなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右事実によれば、被告組合は、前記広告等の契約により被告車につき自己の名称を掲載することにより、被告車に対する運行上の支配および利益を有していたものであり、このことは、仮に本件事故当時被告組合が前記養鶏用飼料の運送業務を被告敬治に依頼していたか否かにより消長を来すものではない、と解するのが相当である。

四  すると、被告両名は、自賠法三条により被告車の事故により被つた原告の損害を賠償する責任がある。

もつとも、被告らは、本件交通事故が原告の一方的過失により生じたものであるとして、同条但書に基づく免責を主張(抗弁)している。

しかしながら、前記乙第三号証、成立につき争いのない甲第二号証、乙第六号証、同第一〇、第一一号証によれば、本件事故現場は緩いカーブのアスフアルト舗道で、幅員は約五・八メートルないし約六・四メートル、そのほぼ中央に黄色で中央線が画かれてあつたこと、西川和男は、被告車の車幅(二・一五メートル)および車長(七・三九メートル)からみて道路左側半分の範囲内にて被告車を運行することができたのに、被告車の右側車輪(前後輪とも)を前記中央線上に置いた状態で進行したため、折柄、右中央線に寄つて対向してきた原告車の前方右部に自車前方右部を衝突させ、そのため本件交通事故が発生するに至つたこと、以上の事実が認められ、これに反する証人西川和男の証言は措信することができず、他に右認定に反する証拠は存在しない。

右事実によれば、西川和男が被告車を道路左側に寄せず中央線を若干越えた状況で進行させた過失により、本件交通事故が発生したものというべきであるから、被告ら主張の前記免責の抗弁は採用することができない。

そこで、原告の損害額について検討することとする。

五  成立につき争いのない甲第三・第四号証の各一・二、同第八号証、同第一一号証によれば、原告は前記負傷治療のため、石川病院に昭和五〇年五月六日から同年六月二八日まで入院し、その後昭和五一年一月五日まで通院し、その治療費金一〇一万七五八六円を負担したこと、および、小野寺歯科医院に昭和五〇年六月一〇日から同月一九日までの間通院して、前記外傷による義歯破損再製治療費金二三万二五〇〇円を負担したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

なお、原告が右入院期間中雑費として少なくとも一日につき金五〇〇円の支出を余儀なくされたことは一般経験則により明らかであり、すると、原告は右入院期間五四日間に合計金二万七〇〇〇円の雑費を最少限度支出したこと計数上明白というべきである。

六  証人中西ふさ子の証言により成立の認められる甲第五号証と同証人の証言を総合すれば、原告は本件交通事故により重傷に陥り前記入院期間五四日間のうち、当初から昭和五〇年五月三〇日までの二五日間は用便、食事などすら思うにまかせず、付添婦桜井静子と原告の妻・ふさ子が昼夜交代して原告を看護し、その後は退院まで原告の妻・ふさ子が独りで看護したこと、右看護のため桜井静子に対し金一七万五〇〇〇円を支払つたこと、原告は、当時北条板金塗装有限会社を経営し、妻・ふさ子もその事務員として稼働し、一か月金七万円の収入を得ていたが、右入院看護中は右の稼働をすることはなかつたこと、以上の事実が認められこれに反する証拠はない。

右事実によれば、原告は前記入院期間のうち昭和五〇年五月六日から同月三〇日までの付添看護料として付添婦桜井静子に対し金一七万五〇〇〇円を支払い、また、妻・ふさ子の看護につき入院期間中一日少なくとも金二〇〇〇円の割合による看護料を負担しているものと認められる(その合計額が金一〇万八〇〇〇円となること計数上明白である)。

七  証人中西ふさ子の証言により成立の認められる甲第六号証の一・二と同証人の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は、本件交通事故による保険金その他の請求のため、石川病院に依頼して診断書・診療報酬明細書の作成をしてもらい、その手数料金一万円を同病院に支払つたことが認められ、これに反する証拠はない。

八  証人中西ふさ子の証言および原告本人尋問の結果を総合すると、原告は当時前記有限会社の経営に従事し一か月金一八万円の収入を得ていたが、前記入通院期間八か月間は全く就労することができなかつたことが認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、原告は、本件事故により右八か月間休業したことにより、少くとも金一四〇万円の収入をあげられず、同額の損害を被つたものと認めることができる。

九  前記甲第三号証の一・二と証人中西ふさ子の証言ならびに原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、前記重傷治療のため小腸一部切除、横行結腸間膜損傷部修復手術を受けたが、その結果、腹部に力が入らず、常時食欲不振・慢性的な便秘が継続し、薬による排便には腹部の疼痛があり、かつ、常に頭重感・腹痛があり、そのため、従前従事していた自動車の販売整備および経理事務に就くことができず、帳簿点検程度の軽労働にしか従事できないことが認められ、これに反する証拠は存しない。

右事実によれば、原告は、本件交通事故により自賠責保険障害等級表(自動車損害賠償保障法施行令別表第二条関係)第一一級九号の「胸腹部臓器に障害を残す」後遺症障害を被つたものというべく、そのため、原告は、今後少なくとも二〇パーセントの労働力の喪失があるものといわなければならない。

原告は、大正九年二月二七日生れで昭和五一年一月当時五五年一一か月の男性であるから、今後少なくとも、六七年までの約一一年間余り、当業に従事することができるものと一般経験則上認めることができる。

右事実から、原告の労働力減退による逸失利益の現在価をホフマン方式(その係数は八・五九〇である。)により計算すると、次のとおり金三六〇万七八〇〇円となること計数上明白である(ただし、原告の年収を金二一〇万円とした)。

210万円×0.2×8.590=3,607,800円

一〇  右五ないし九認定・説示のところからすれば、原告は合計金六五七万七八八六円相当の財産上の損害を被つたこと、計数上明白である。

一一  ところで、前記乙第三号証、成立につき争いのない乙第四、第一二号証と原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件交通事故発生の直前、原告車を運転し、対向車がないため前記中央線の右側にややはみ出した恰好で時速約五〇キロメートルの速度で進行し、本件事故現場である前顕カーブの個所に差しかかつたところ、折柄、対向してくる被告車を発見し、直ちに、これとの衝突を避けるべく、避譲の措置を採つたが、被告車が近接していたことと道路がカーブしていることおよび原告車の速度などから間に合わず、道路中央線やや右側の地点で原告車と被告車とが衝突し、本件事故が発生するに至つたこと、ならびに、原告車はその車幅・車長からして右の道路の左側半分の部分にて十分走行が可能であつたこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。

右事実によれば、本件交通事故の発生については、原告が前方の交通事情をよく考えないで本件カーブの個所を相当の速度でもつて道路の中央線を越えて原告車を運転進行したことにも原因があり、原告にも相当の過失があつたものというべく、これが過失相殺をなす必要があるところ、右事故の状況および被告側(西川和男)の過失の程度などを勘案すると、原告の右過失の割合は五〇パーセントをもつて相当と解される。

したがつて、被告らが本件交通事故により賠償すべき財産上の損害の額は、右過失相殺の結果、金三二八万八九四三円となること計数上明白である。

一二  また、前記の原告の職業年齢・負傷の状況および本件交通事故発生に対する過失の程度、その他一件記録上明白な当事者の収入財産の状況など諸般の事情を勘案すると、原告の本件交通事故による精神的苦痛に対する慰藉料は金一〇〇万円をもつて相当と解される。

一三  以上のとおりであるから、被告らが賠償すべき本件交通事故による財産上および精神上の損害の額は合計金四二八万八九四三円であるところ、原告が右損害のうち金八〇万円を自賠責保険より填補を受けたことは当事者間に争いがないので、これを控除すると、未払の損害額は金三四八万八九四三円となる。

また、本件訴訟の難易の度合、本件交通事故の損害額など諸般の事情によれば、被告らの負担すべき本件弁護士費用は、着手金および成功報酬とも各金二〇万円ずつをもつて相当と解される。

一四  すると、被告らは原告に対し左記の損害等を賠償する義務がある。

(1)  前記財産上、精神上の損害の残金三四八万八九四三円とこれに対する本件訴状送達の日の翌日たること記録上明白な昭和五一年八月二四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金。

(2)  弁護士費用 金四〇万円

一五  よつて、原告の本訴請求は、前項で正当と認めた限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条本文、九三条一項、仮執行の宣言について同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 砂山一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例